米国における知財訴訟実務の最前線 vol.2
米国最高裁判決における特許関連トピックス
~KSR判決を中心に(3)
マイケル V. ソロミタ
アムスター, ロススタイン&エーベンスタイン法律事務所 パートナー、米国特許弁護士
前回 に引き続き、KSR判決の争点や影響について述べます。
KSR判決の影響と日本企業の対応
KSR 判決によって、特許クレームの無効化を考えるにあたり、より広い範囲で「公知技術を組み合わせ得た」と言えるよう になりました。もはや、公知技術内で組み合わせるよう「指導、示唆、動機付け」するものがなくてはならない、という厳格な 基準はありません。公知技術が、当該特許が解決しようとした問題と同じ問題を解決しようとしたものである必要もありませ ん。より柔軟なTSMテストでは、当該特許発明がなされた当時、その技術分野において知られており、かつ当該特許発明 が言及するニーズや課題のすべてが、ある公知技術を組み合わせる理由となり得ます。また、技術者は、複数公知技術の 要素を本来の目的以外にも使用し得ますし、「その組み合わせは誰でもそうしただろうものである」と言うこともできるので す。
つ まり、KSR判決により、公知技術を組み合わせたであろうと考えるに足る技術者の知識の範囲や選択肢が広がったの です。特許侵害裁判で侵害を主張される被告にとっては、こうした技術者の視点から公知技術を組み合わせ、無効主張を 行うことが容易になることは間違いありません。このKSR判決を受け、今後、特許侵害裁判においては訴訟対象分野の技 術者の知識レベル、およびその知識レベルであれば公知技術をどう解釈するか、を決定することが非常に重要になり、自 明性に関する技術エキスパート(注8)、およびそのエキスパートによる証言が重要性を増すものと思われます。今後の侵 害訴訟では、知財部門および当該技術分野の技術者が技術の分かる特許弁護士としっかり相談をした上で適切な技術エ キスパートを選定し、そのエキスパートに争われている技術問題や関連する公知技術を伝えて理解させることがとても重 要になるのです。
な お今回、最高裁判所が自明性の判断を法的問題とし、地応してきました。KSR判決後は、事実がそろえば自明性主張のほうが認められやすく、特 に「略式判決を利用するなら自明性を主張する方が良い」と言えます。これはライセンス交渉でも同じです。よって今後は、 相手から特許を主張される立場の場合、技術の分かる特許弁護士としっかり相談し、当該特許に対する適切な自明性主 張を検討なさることが大切です。
日本の知財ご担当者の皆様には、KSR判決を「訴訟」と「米国における特許審査」の2つの文脈からご理解いただきたい と思います。和解交渉を含む訴訟においては、KSR判決によって非自明性が否定されやすくなったこと、よって被告として 訴訟を扱う場合には第一義的戦略として自明性主張を検討してみる、ということを肝に銘じておく必要があります。これま で被告は自明性を主張することを躊躇し、むしろ冒頭に述べたように、当該特許クレームに対して「予見可能であった」と主 張し得る公知技術を探すことで対応してきました。KSR判決後は、事実がそろえば自明性主張のほうが認められやすく、特 に「略式判決を利用するなら自明性を主張する方が良い」と言えます。これはライセンス交渉でも同じです。よって今後は、 相手から特許を主張される立場の場合、技術の分かる特許弁護士としっかり相談し、当該特許に対する適切な自明性主 張を検討なさることが大切です。
米 国における特許審査については、KSR判決を受けた米国特許庁の正式ガイドラインが待たれるところですが、おそらく KSR判決により、公知技術の組み合わせによるクレーム拒否が増加すると思われます。クレームが容認されることが難しく なり、また自明性によりクレームが拒否された場合、それを覆すための米国特許庁とのやりとりに多大なる努力が必要とな るでしょう。今後、米国特許の出願およびその審査中に、日本の知財ご担当の皆様は、関連し得る公知技術について米国 弁護士と綿密な討議をしておくことが重要になるでしょう。
注8: 一般的に、当該技術分野の識者に相当する技術者や大学教授など。弁護士がその技術エキスパートに質問する形で、特許の重要性や 有効性(被告側は、特許の非重要性や無効性)を立証していく。
注9: 略式判決とは、重要な事実に実質的な争いがない場合に法的問題にかかわる決定として、陪審ではなく裁判所によりなされる決定をい う。連邦民事訴訟手続規則56条(Fed. R. Civ. P. 56.)
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